【税務裁決】副業の赤字は給与と相殺(損益通算)できる? 社労士業務が「雑所得」と判断された事例
会社員の方が副業をしたり、資格(例えば社会保険労務士)を取って独立の準備を始めたりすることは珍しくありません。
もしその副業で赤字(損失)が出てしまった場合、本業である会社の「給与所得」と相殺(損益通算)して、税金を安くすることはできるのでしょうか?
ここで大きな分かれ目となるのが、その副業が**「事業所得」と認められるか、それとも「雑所得」**と判断されるか、です。
「事業所得」と「雑所得」損益通算の違い
まず、この2つの決定的な違いを押さえておきましょう。
* 事業所得:
その事業で赤字(損失)が出た場合、本業の給与所得など、他の黒字の所得と相殺(損益通算)することができます。その結果、全体の所得が減るため、所得税や住民税が安くなる可能性があります。
* 雑所得:
赤字(損失)が出たとしても、給与所得など他の所得と損益通算することはできません。 (※雑所得の中での黒字と赤字の通算は可能ですが、給与所得とは相殺できません)
つまり、赤字を給与と相殺するには、その活動が「事業所得」であると税務署に認められる必要があります。
社労士業務の赤字は「事業」か「雑」か?
では、どのような場合に「雑所得」と判断されてしまうのでしょうか。
まさにこの点が争点となった、社会保険労務士の相談業務に関する裁決事例(令和5年6月16日裁決)をご紹介します。
どんなケースだった?
* 納税者(請求人): 3つの会社から給与収入を得ながら、社会保険労務士として相談業務(本件業務)も行っていました。
* 申告: この社労士業務で損失(赤字)が発生したため、これを**「事業所得」**として、給与所得と損益通算して確定申告しました。
* 税務署の処分: 税務署は「この社労士業務は雑所得に該当する」と判断。したがって、給与所得との損益通算はできないとして、更正処分(税額の増額)を行いました。
納税者はこの処分を不服として、審査請求を行いました。
審判所の判断:「雑所得」に該当(納税者敗訴)
国税不服審判所は、税務署の処分を支持し、納税者の請求を棄却しました。
審判所は、「事業所得」とは、「自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務」であるとしています。
その上で、この社労士業務がなぜ「事業所得」と認められなかったのか、その理由を見ていきましょう。
「雑所得」と判断されたポイント
* 著しく大きな損失(営利性の欠如)
反復継続して売上があったことは認められました。 しかし、必要経費が売上金額の約7倍から13倍にもなっており、そのような多額の損失が5年連続で生じていました。
審判所は、これを「経済合理性に欠け、営利性は乏しい」と判断しました。
* 損失改善の努力が見えない(企画遂行性の希薄)
納税者は、売上先がわかる書類や、営業活動の内容を詳細に示す資料を作成していませんでした。 これにより、「損失を改善する手段を講じていたとは言えない」と判断されました。
* 業務のウエイトが低い
相談を受ける頻度は平均して月に2回から3回程度であり、業務に費やした精神的・肉体的労力の程度は、必ずしも大きいものではないとされました。
* 生活の基盤ではなかった
納税者は、本業である3社からの給与収入で生活の糧を得ていました。 この社労士業務が安定した収益を得られる可能性が高いとは言えない状況でした。
結論
これらの点を総合的に考慮し、社会通念に照らして判断すると、この社労士業務は「事業所得」には当たらず、「雑所得」に該当すると結論付けられました。
その結果、赤字(損失)を給与所得から控除(損益通算)することは認められませんでした。
まとめ
副業や資格を活かした活動が「事業所得」と認められるかは、単に開業届を出したかどうかではなく、その活動の実態(営利性、継続性、独立性など)によって総合的に判断されます。
特に、長期間にわたって売上に対して経費が極端に多い状態が続いていると、そもそも「利益を上げる(営利)目的」があったのかを厳しく見られ、「雑所得」と認定されるリスクが高まります。
副業の経費を計上する際は、その活動が「事業」と呼べる実態を伴っているか、今一度確認することが重要です。